江國香織
- 『神様のボート』 新潮社
最近読んだ彼女の本の中では一番いい。あとがきには「狂気の物語」とあるけれど、わたしにとしては一番リアルな小説であった。これは相手の男性が出てこないからだろう。16年間漂いつづけたボートのたどり着く先は始まったときからひとつしかなくて、そんなこと皆わかっているのに進んでしまう。こういう物語を書く、そのことが江國さんにとっては酔狂な行為なのだろう。(20050805)
- 『泳ぐのに安全でも適切でもありません』 集英社
もはや面白いのか面白くないのかよくわからない。周りに祝福されなくてもわたしは幸せだし、という江國さんの”愛=ねじれ”みたいな感覚は、思えばもうずっと一貫したものなんだな。でもいつかちゃんと戦ってみて欲しい。世界の中心じゃないところからの物語を。
帽子ときゅうりと数字の2の話と聞いていた。侮っていた。これは正真正銘、帽子ときゅうりと数字の2の話であった。挿画がとても綺麗。20040929
20代から40代のくらいの女性を群像劇風に描いた作品。ひとことで感想を言うならば、「…恐い」。しかし途中からは少し愛おしさも覚え、なかなか面白かった。わたしはクールではなくドライ(かつ大雑把)だなと、自分に似た何人かの登場人物を見て思った。結婚に夢を描いているひとが読んだら腹が立つかも。20040516
- 『きらきらひかる』 新潮社
ふと何度目かの再読。手元にあるのが5版で、平成6年発行だから、手にしてからもう10年ぐらい経ったらしい。わたしにとっては未だに(おそらく永遠に)玉のような小説で、だからはっきりいって他の江國香織の本にはあまり興味がないのである。
この本のいちばん好きなくだりは、紺くんが睦月の家に絵を描きにやってきて、完成するとその絵をあげると言う。それが紺くんの苦しいラブレターだとわかったという話。絵を描くことと詩を書くことはとても似ていて、詩と小説よりもずっと似ていると思う。わたしは長い間ずっと苦しいラブレターを書きつづけているのかもしれない。
次に好きなのは暖かくなってもシーツにアイロンをかけると笑子が言いはるエピソード。紺くんや睦月の同僚たちが一同に集まって宴会をするくだりも好き。相手のことを深く知らなくても、ほろ酔いで完璧な空間と時間というのは確かにあるものだ。20040913