日日平安

再開しました

 『闇の左手』 アーシュラ・K・ル・グィン

一言で言うと、”奇妙な”小説だ。掴みどころがない、というより、輪郭がない。ぼやけた二つの影のような塊が、風雪のなか、ただ白い世界を移動している。核心は常にある。愛に似ているが、それをそのまま愛と呼んでいいのかわからない。両性具有の異星人であるエストラーベンの奇妙な献身ぶりに心を打たれる。彼がいったい何に捧げているのかこれも輪郭がよくわからない。が、やはり核心はあるのである。何か奇妙な情熱を抱きつつ、物語は進んでいく。世界にふたりきりになったとき、男でも女でもなく、地球人でも異星人でもなく、輪郭を失っていくばかりだ。しかし交じり合うことはない。個は個として常に在る。物語は言葉にならない不思議な静けさに満ち、静かな感動に浸りながらゆっくりと読んだ。

余談だが、「ジェイン・オースティンの読書会」という映画を観てこの本を手に取ったわけだけど、どうなんだろう、あのようなタイプの女性がこの本に感動するだろうか? ちょっと謎である。