『わたしを離さないで』 カズオ・イシグロ
なぜか、わたしのなかでは少し前に読んだ「闇の左手」と綺麗に対をなした。つまり、輪郭はあるが、核心がないということになるだろうか。腹の中に熱い石を抱えていたような「闇の左手」に対し、「わたしを離さないで」は石だらけの道を素足で歩いているような、小さな痛みが断続して続いてゆく。それが自分のなかのどこに起因しているのか分かっているようで、どうしても探り当てることができないような、もどかしさがある。
これはどういう物語なのか。核心はどこにあるのか。次第に明らかにされていく世界観に驚くのもありだが、多少勘がよければごく最初の方で気づいてしまう程度のものだ(作家自身も重要ではないとして、ネタバレ可としている)。では少年少女たちの、われわれの誰もが体験したことのあるような美しく醜い人間関係にあるのか。もしくはわれわれとまったく違う環境を生きなければならなかった彼らの哀しい終焉にあるのか。
特殊な設定を除けば、特別な物語ではない。けれど、霞を掴むようなものだと分かっていても、足掻かずにはいられないような、ひりひりとした痛みがある。読んでいて非常に辛かったが、先を読まずにはいられなかった。強く強く揺さぶられた。それでもこれを感動というのかわからない。振り返ったときに、思い出される風景が多すぎる。
- 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/08/22
- メディア: 文庫
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