日日平安

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 『奇貨居くべし』 宮城谷昌光

6年にわたって雑誌に連載された作品とのこと。宮城谷氏の端正な仕事は連載形式によく合うと思った。淡白ではあるが、端々まで隙がなく、しずかな緊張感を持って全5巻を一気に読んだ。わたしにとっては、疲れたときにでも読め、かつ楽しませてくれる癒し小説家。。

ところで本書は秦の始皇帝の父とも言われる呂不韋の物語。賈人(店を構えて商売する商人)という農民より下に見られるような身分から宰相まで登り詰めた人だ。数々の苦難を好機に変えていく人生は、菅仲や重耳のような人間臭さはなく、雲に乗ってさっそうと駆け抜けたような感じがする。澄み切った鮮やかな人生だが、それだけに最期が重い。

呂不韋の編纂した一大事業「呂氏春秋」の思想が根底にあるのだろう。不韋の人生を足早に追いながらも、思想に満ちた作品だった。多くの人を富ませ、楽しませ、かつ育て上げたその思想の第一歩は、まずは与えること。人への投資を存分に行った不韋の性質は賈人ならではといえるかもしれない。


奇貨居くべし 春風篇奇貨居くべし 火雲篇奇貨居くべし 黄河篇奇貨居くべし 飛翔篇奇貨居くべし 天命篇