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 『冷血』トルーマン・カポーティ

ノンフィクション・ノベルという新ジャンルを切りひらいたカポーティの傑作。実際に起きた事件を丹念に(あるいは執拗に)取材し、彼独自の文体で新たな物語を立ち上げた。事件そのものはありふれた事件である。殺された家族も、犯人たちも、町の人々も、皆ありふれている。けれど、ありふれているだけに、われわれはほんの少し運が悪ければ、いつでもその三者のいずれかになりうるだろう。

この作品はもちろん、作品として優れている。ひとつの事件をここまで圧倒的な筆力は誰もが認めるところと思う。ただクライムノベルとしても読めるし、内容については好き好きだと思う。

しかし、この小説が本当に面白いのは、カポーティは作中に不在でありながら、カポーティ自身の物語が色濃く作品に滲んでいる点ではないか。やや冗長な感のある終章など、(小説を完結させるために)殺人犯ペリー・スミスの死をじりじりと待つ焦燥が伝わってくる。映画『カポーティ』を合わせて観るのがオススメ。

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)