『荒野のおおかみ』ヘッセ
ヘッセってちょっと面倒くさいひとだなとついつい思ってしまうのだけど、ずんずんこちらの領域に踏み込んでくる、そんなところが面倒くさいのかも。
おおかれ少なかれ、誰の心の中にも”荒野のおおかみ”が存在している。”荒野のおおかみ”の力が強くなりすぎると、この社会で生きていくのが難しいようだ。解説ではおおかみについて、”アウトサイダー”と簡潔に書かれてしまっているが、ちょっと違う気もするかな。最近観た映画で、『ベルサイユの子』というフランス映画を思い出した。きちんとした教育を受けているようなのに社会から離れて森の中で暮らす青年が、一度は子供のために社会に復帰を決意する。だが、どうしても社会で生きていくことの出来ない苦悩が描かれていた。まっさきに彼のことを思い浮かべた。主人公を演じたのはギョーム・ドパルデュー。名優ジェラール・ドパルデューの息子で、彼自身もまた父親と不仲で苦闘していたようだ。
『車輪の下』のハンスは生き延びることができなかったが、『荒野のおおかみ』のハリーは常に自殺を身近なものとして考えつつも間もなく50歳を迎えようとしている。ふたりともヘッセの半身であり、またハリーを叱咤し、光を呼び起こす少女ヘルミーネもまたヘッセ自身である。その光が本当に希望になるかはわからないが、死に対する苦闘そのものが生きている証でもあって、おおかみを殺すのではなく、生かすために、他者とどのように関わっていくかについて、答えにはなっていなくとも、少なくともある種の明るさを見出せたような気がする。
- 作者: ヘッセ,高橋健二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1971/03/02
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (36件) を見る